高齢者の転倒に注意!
大腿骨近位部骨折とは?
大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶこっせつ)とは、太ももの骨(大腿骨)の付け根、股関節に近い部分で起こる骨折の総称です。この骨折は、特に骨がもろくなっている高齢者、とりわけ骨粗鬆症を患っている方に多く発生します。
なぜ起こるのか?主な原因とリスク
大腿骨近位部骨折のほとんどは、転倒が原因で発生します。
高齢者においては、特別な高所からの転落などではなく、ご自宅でのつまずきや尻もちといった比較的軽微な転倒でも骨折に至ることが少なくありません。これは、加齢による骨強度の低下と、骨粗鬆症の存在が大きく影響しています。
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骨粗鬆症: 骨がもろくなることで、外部からの衝撃に耐えられなくなり、骨折のリスクが大幅に高まります。 
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加齢: 骨の老化に加え、筋力やバランス能力の低下も転倒リスクを高めます。 
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その他: 認知症がある場合、痛みや骨折に気づくのが遅れることもあります。 
骨折の種類
大腿骨近位部骨折は、骨折した部位によって大きく2つに分けられます。
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大腿骨頚部骨折(関節内骨折)
股関節の袋(関節包)の内側で骨折するタイプです。痛みが比較的軽いことがありますが、血流障害により骨のつきが悪くなったり、後から骨頭が壊死(えし)を起こしたりするリスクがあります。
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大腿骨転子部骨折(関節外骨折)
股関節の袋の外側で骨折するタイプです。痛みが強く、内出血も多いため、全身状態に影響が出ることもあります。
どのような症状があるのか?
大腿骨近位部骨折が起こると、以下のような症状がみられます。
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激しい股関節の痛み: 転倒直後から股関節の付け根あたりに強い痛みが生じ、ほとんどの場合、立つことや歩くことができなくなります。 
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体動困難: 痛みのため、脚を動かすことが非常に困難になります。 
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まれなケース:ごく稀に、骨のずれが少ない亀裂骨折(いわゆるヒビ)の場合は、つかまり立ちや伝い歩きができることもありますが、注意が必要です。 
診断と治療
診断は、診察所見とX線(レントゲン)写真でほとんどの場合可能です。亀裂骨折などでX線では分かりにくい場合は、MRI検査を行うこともあります。
治療は基本的に手術が選択されます。これは、骨折した部位や状態によって、骨を直接つなぎ合わせる「骨接合術」や、人工の骨頭に置き換える「人工骨頭挿入術」などが行われます。手術後は、早期にリハビリテーションを開始し、機能回復を目指します。早期の手術は、死亡率の低下や運動能力の維持、肺炎や褥瘡(じょくそう)などの合併症発生率の低下につながるとされています。
大腿骨近位部骨折の重要性
この骨折は、高齢者の「寝たきり」の大きな原因となることで社会的な問題にもなっています。
骨折によって活動量が低下すると、筋力低下、全身状態の悪化、肺炎や深部静脈血栓症(血の塊ができる病気)などの合併症のリスクが高まります。特に深部静脈血栓症が肺に飛ぶと、肺塞栓症という命に関わる状態になる可能性もあります。
予防が最も重要
大腿骨近位部骨折は、骨粗鬆症の予防と転倒予防によって、そのリスクを大きく減らすことができます。
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骨粗鬆症の対策: 定期的な骨密度検査、カルシウムやビタミンDを意識した食事、適度な運動、必要に応じた薬物療法で骨を強く保ちましょう。 
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転倒予防: 自宅内の段差をなくす、手すりを設置する、滑りにくい履物を選ぶ、筋力やバランス能力を維持・向上させる運動を行うなど、日頃から転倒を防ぐ意識を持つことが大切です。 
大腿骨近位部骨折は、一度発症すると生活に大きな影響を及ぼしますが、適切な予防と早期の治療、そしてリハビリテーションを通じて、活動的な生活を維持することが可能です。
R-accion.代表の小宮から
高齢者にとって「大腿骨近位部骨折」は、まさに「生活を脅かす大きな壁」となりかねません。ご自宅でのちょっとしたつまずきや尻もちでもこの骨折は起こり、多くの場合、手術と長期のリハビリが必要になります。
そして何より、「寝たきり」に繋がるリスクが非常に高いことが特徴です。
しかし、適切な予防策と、早期からの集中的なリハビリによって、この壁を乗り越え、再びあなたらしい活動的な生活を取り戻すことは十分に可能です!
また、入院中のリハビリで歩けるようになっても、それで終わりではありません。退院後も筋力やバランス能力を維持・向上させるための運動を継続することが、再転倒や再骨折を防ぐ上で非常に重要です。地域の介護予防教室やデイサービスなどを活用することも検討しましょう。ラクシオンも地域の介護予防教室を開催しています!!

【参考にした情報源】
内田淳正:標準整形外科学.第11版.株式会社医学書院.2012
岡庭豊:病気が見える vol.11 運動器・整形外科.第1版.株式会社メディックメディア.2021
森諭史,他:脊椎圧迫骨折,老人骨折に対するリハ・ケア,第37回日本リハビリテーション医学会学術集会.585-586.2000
