骨粗鬆症と高齢者の「4大骨折」について
骨粗鬆症は、骨強度が低下し、骨折しやすくなる骨の病気です 。特に日本では約1300万人が罹患していると推定され 、加齢とともに有病率が上昇し、特に女性でその傾向が顕著です。これは、加齢と閉経が骨量減少の主な要因であるためと考えられます 。
骨粗鬆症は「沈黙の疾患」とも呼ばれ、骨折を発症して初めてその存在に気づかれることが多いです 。骨粗鬆症による骨折は、日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を大きく低下させる要因となります 。
骨粗鬆症の病態と原因
骨粗鬆症は、骨量の減少(骨密度の低下)により骨の強度が低下して生じます 。骨量の減少は、骨吸収が骨形成を上回ることで起こり、その主な原因は閉経と加齢です 。
性ホルモンの影響
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女性ホルモンであるエストロゲンは、骨を壊す破骨細胞の働きを抑制し、骨吸収を抑えます 。閉経後にエストロゲンが急激に減少すると、破骨細胞が活性化し、骨量が急速に減少します(閉経後骨粗鬆症) 。
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男性ホルモンであるアンドロゲンは、骨を作る骨芽細胞の働きを促進し、間接的に骨吸収を抑制すると考えられています 。男性の骨量減少は女性に比べて緩やかです 。
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栄養不足: 骨の健康には、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどの栄養素が不可欠です。特に日本人では慢性的にカルシウム摂取量が不足しており、1日800mg以上のカルシウム摂取が推奨されています 。
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運動不足: 骨は適度な負荷がかかることで強度が保たれるため、運動不足も骨密度低下の一因となります 。
診断と検査
原発性骨粗鬆症の診断は、続発性骨粗鬆症を除外した上で、脆弱性骨折の有無や骨密度を考慮して行われます 。
骨密度測定(DXA法)
骨密度測定の標準的な検査法であり、腰椎や大腿骨近位部での測定が推奨されます 。若年成人平均値(YAM)と比較して診断が行われます.
X線像による評価
骨粗鬆症の診断にはX線像による評価が不可欠です 。特に椎体骨折の評価には、QM法やSQ法といった評価基準が用いられます 。
骨代謝マーカー
骨代謝マーカーは、骨折の危険度予測や治療薬選択、治療効果の判定に利用されます 。
高齢者の「4大骨折」 骨粗鬆症が原因で起こりやすく、高齢者のADL・QOLに大きな影響を及ぼす骨折として、「4大骨折」が挙げられます 。
脊椎椎体骨折(背骨の骨折)
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尻もちや軽い外力で発生することがあり 。
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強い背中の痛みや、痛みを伴わない円背(背中が丸くなる)が生じることがあります 。
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骨折数が多いほどADLが制限されることが知られています 。
大腿骨近位部骨折(太ももの付け根の骨折)
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転倒により発生することがほとんどで、多くの場合手術が必要です 。
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寝たきりの大きな原因となります 。70歳以降に発生率が上昇し、特に80歳代後半から90歳以上で顕著です 。
橈骨遠位端骨折(手首の骨折)
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転倒時に手をついた際に起こりやすい骨折です 。閉経後に発生率が高くなりますが、後期高齢者では発生率の上昇は見られにくい傾向があります 。
上腕骨近位部骨折(肩の骨折)
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転倒して肩を打ったり、手をついたりした際に起こりやすいです 。
予防と治療
骨粗鬆症の治療の主な目的は、骨格の健康を保ち、QOLを維持することにあります 。骨強度を維持し、転倒を防止することで骨折を予防することが重要です 。
食事療法
カルシウムやカルシウム吸収を促進するビタミンDを含む食品を積極的に摂取します 。
運動療法
骨に適度な負荷をかけ、骨強度を上げる運動を行います。また、筋力やバランスを鍛え、転倒を予防することも重要です 。
薬物療法
骨吸収を抑制する薬や、骨形成を促進する薬などがあります 。骨代謝調整薬、骨吸収抑制薬、骨形成促進薬などに分類され、患者の病態や適応に応じた選択が行われます 。
生活環境の整備
つまずきやすい場所の改善、手すりの設置など、転倒予防のための環境整備も重要です 。
骨粗鬆症は早期からの予防と適切な治療により、健康寿命を長く保つことができる疾患です。
R-accion.代表の小宮から
骨が脆くなっていると、ちょっとしたつまずきでも骨折に繋がります。ご自宅の段差をなくす、手すりをつけるといった環境整備はもちろん、私たち理学療法士と一緒に、バランス能力や筋力を高める運動に取り組み、「転ばない体」を目指しましょう。
骨の健康には、食事(カルシウム、ビタミンD、K)、適度な運動、そして薬物療法が重要です。特に、屋外で日光を浴びるウォーキングは、骨に良い刺激を与え、ビタミンDの生成も促します。医師や栄養士、理学療法士の指導を受けながら、これらを日々の習慣にしてください。
骨粗鬆症は、「沈黙の疾患」とも呼ばれるように、気づかないうちに進行し、突然の骨折でその存在が明らかになることがあります。特に、脊椎、大腿骨近位部、橈骨遠位端、上腕骨近位部の**「4大骨折」は、一度起こすと生活の質を大きく低下させる**可能性があります。しかし、適切な予防と、転ばないための体づくりは、骨折リスクを大きく減らし、活動的な毎日を守るために最も重要なことです!

【参考にした情報源】
岡庭豊:病気が見える vol.11 運動器・整形外科.第1版.株式会社メディックメディア.2021
萩野浩,他:骨粗鬆症によるADL・QOLの低下,骨粗鬆症のマネージメント,第48回日本リハビリテーション医学会 学術集会.481-483.2012
