脳卒中のリハビリテーション:回復への道
脳卒中(脳梗塞や脳出血など)は、脳の血管に問題が起きて脳細胞が傷つき、手足の麻痺や言葉の障害など、様々な後遺症を残すことがあります。傷ついた脳細胞は元には戻らないため、残された機能を最大限に引き出し、失われた部分を補うためのリハビリテーションが、患者さんの生活を取り戻すためにとても重要です。
脳卒中のリハビリテーションは、病気になった直後から始まり、ずっと続いていきます。一人ひとりの状態に合わせたサポートが大切です。
リハビリテーションの3つの時期
リハビリは、時期ごとに目標と内容が変わります。
1. 急性期(発症直後〜約1週間)
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目標: 体の機能が低下するのを防ぎ、合併症(肺炎など)を予防すること。
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内容: ベッド上での体の向きを変えたり、関節を動かしたり、座る練習をしたりと、無理なく体を動かすことから始めます。
2. 回復期(発症後数ヶ月〜約半年)
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目標: 体の動きを取り戻し、日常生活の動作を自分でできるようになること。
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内容:
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理学療法士(PT): 寝返り、起き上がり、座る、立つ、歩くなど、基本的な体の動きを練習します。
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作業療法士(OT): 食事、着替え、お風呂など、日常生活に必要な動作や、細かい手の動きを練習します。また、集中力や記憶力などの脳の機能回復もサポートします。
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言語聴覚士(ST): 話すこと、飲み込むことの練習をします。
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3. 生活期(発症後半年以降)
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目標: 回復した機能を維持し、さらに良くしていくこと。再発を防ぎ、生活の質を保つこと。
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内容: 自宅での運動、通所リハビリ、訪問リハビリなどを続け、機能を維持・向上させ、自分らしい生活を送れるようにします。
みんなで支えるチーム医療
脳卒中のリハビリは、様々な専門家が協力し合って行われます。
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医師: 治療全体を指揮します。
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理学療法士(PT): 立つ、歩くなどの体の基本的な動きをサポートします。
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作業療法士(OT): 食事や着替えなど、日常生活の動作をサポートします。
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言語聴覚士(ST): 話す、食べる(飲み込む)ことをサポートします。
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看護師: 日常生活のケアや健康管理をサポートします。
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社会福祉士・ケアマネジャー: 退院後の生活や社会復帰に関する相談に乗ります。
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その他、薬剤師、栄養士、義肢装具士などが連携します。
リハビリの主な内容
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体を動かす練習: 寝返りから歩行まで、段階的に体の動きを練習します。日常生活動作(食事、着替えなど)の練習も行います。杖や装具なども活用し、安全に動けるようにします。
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飲み込み・言葉の練習: 食べ物を安全に飲み込めるようにする練習や、言葉の理解・表現の練習をします。
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脳の機能回復: 注意力、記憶力などの脳の働きを改善するための訓練を行います。
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装具の利用: 麻痺の程度に合わせて、足や手などの装具や杖などを使い、動きを助けます。
脳卒中後の様々な症状とリハビリ
脳卒中後は、麻痺以外にも色々な症状が出ることがあります。
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手足の麻痺、しびれ: 運動や感覚の練習で対応します。
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話しにくさ(構音障害)や言葉の理解・表現の困難さ(失語症): 言語訓練で対応します。
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飲み込みにくさ(嚥下障害): 飲み込みの練習や食事の工夫をします。
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記憶力や集中力の低下(高次脳機能障害): 認知訓練や工夫の仕方を学びます。
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筋肉のこわばり(痙縮)や痛み: ストレッチや薬、物理療法などで対応します。
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長期的な安静による体の衰え(廃用症候群): 早期のリハビリで予防・改善します。
これらのリハビリテーションを早く始め、継続することが、機能回復と活動的な日常生活を送るために非常に大切です。再発予防のための生活習慣の改善も同時に行い、長期的な健康を目指します。
脳卒中認定理学療法士の小宮から
脳卒中のリハビリは、医師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)など、様々な専門家がチームであなたをサポートします。それぞれの役割を理解し、不安なことは遠慮なく質問しましょう。「手がしびれる」「言葉が出にくい」など、あなたの身体の感覚や困っていることを具体的に専門家に伝えてください。それが、あなたに最適なリハビリ計画を作るための大切な情報になります。
脳卒中のリハビリは、まさに回復への地図です。発症直後から、その道のりは長く続くかもしれませんが、脳には驚くべき回復力が備わっています。私たちはその力を最大限に引き出し、あなたらしい生活を取り戻すために、チーム一丸となって全力でサポートします。

【参考にした情報源】
岡庭豊:病気がみえる vol.7 脳・神経.第2版.株式会社メディックメディア.2021
