高次脳機能障害とは?:その原因と見えにくい症状の概要
「高次脳機能障害」という言葉を聞いたことはありますか? 手足の麻痺や言葉の障害とは異なり、見た目では分かりにくい「見えにくい障害」と言われることが多く、ご本人やご家族、周囲の方々がその症状に気づきにくい場合があります。
高次脳機能障害は、脳の損傷によって、記憶、注意、遂行機能、感情のコントロール、社会性などの「高次の認知機能」に問題が生じる状態を指します。これらの機能は、私たちの日常生活や社会生活において、物事を理解し、計画し、行動し、人間関係を築く上で非常に重要な役割を担っています。
高次脳機能障害の主な原因
高次脳機能障害は、様々な脳の病気や外傷が原因で発症します。最も多い原因は以下の通りです。
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脳血管障害(脳卒中):
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脳梗塞(脳の血管が詰まる)
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脳出血(脳の血管が破れる)
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くも膜下出血(脳の表面の血管が破れる)
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脳卒中による後遺症は、運動麻痺だけでなく、高次脳機能障害を伴うことが少なくありません。
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頭部外傷:
交通事故や転落などによる脳への物理的な損傷。
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脳炎・髄膜炎:
脳や髄膜の炎症。
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低酸素脳症:
心停止などで脳への酸素供給が途絶えることによる脳の損傷。
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脳腫瘍:
脳にできた腫瘍。
これらの原因によって脳の一部が損傷を受けると、その損傷部位が担当していた高次脳機能に障害が生じる可能性があります。
高次脳機能障害の主な症状:日常生活への影響の概要
高次脳機能障害の症状は多岐にわたり、人によって現れる症状の組み合わせや程度は様々です。しかし、共通して言えるのは、これらの症状が患者さんの社会生活や日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があるということです。
代表的な症状は以下のものが挙げられます。これらの症状は、外見からは分かりにくいため、周囲から「やる気がない」「わがまま」などと誤解されてしまうことも少なくありません。これが、高次脳機能障害が「見えにくい障害」と言われる所以です。
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記憶障害:
新しいことを覚えられない、昔のことも思い出せない、約束を忘れてしまうなど。
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注意障害:
集中力が続かない、複数のことを同時にできない、すぐに気が散るなど。
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遂行機能障害:
計画を立てて実行できない、物事を順序立てて行えない、段取りが悪いなど。
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失語症:
言葉を理解できない、うまく話せない、文字が読めない、書けないなど。
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半側空間無視:
片側(多くは左側)の空間や物体を認識できない、その方向からの刺激に気づかないなど。
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感情・行動の変化:
怒りっぽくなる、感情のコントロールが難しい、無気力になる、社会性が低下する、こだわりが強くなる、急に泣いたり笑ったりするなどが挙げられます。
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失行:
麻痺がないのに、ハサミを使う、服を着るなどの目的に合った動作ができない。
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失認:
物や音、人の顔などを認識できない(顔は見えるのに、それが誰の顔か認識できない)。
脳卒中認定理学療法士の小宮から
手足の麻痺がなくても、記憶や集中力が低下することがあります。これらはあなたの努力不足ではなく、脳の損傷によるものです。まずは、ご自身に起きていることを正しく理解しましょう。「思い出せない」「集中できない」など、日々の困り事を医療スタッフに正直に話してください。言葉で伝えることが難しければ、メモを使うなど、工夫して表現する方法を一緒に見つけましょう。
高次脳機能障害は、その複雑さゆえに、私たちセラピストにとっても常に挑戦です。しかし、患者さんとご家族の「困りごと」に真摯に向き合い、論理的な思考と情熱を持って最適な解決策を探し続けることで、道は開けます。この領域の可能性を、共に追求していきましょう。

【参考にした情報源】
岡庭豊:病気がみえる vol.7 脳・神経.第2版.株式会社メディックメディア.2021
