くも膜下出血とは?
その原因と一般的な特徴
くも膜下出血は、脳を覆う3層の膜のうち、「くも膜」と「軟膜」の間にある「くも膜下腔」という空間に出血が起こる病気です。このくも膜下腔には脳の血管や脳脊髄液が流れており、出血すると脳全体に血液が広がり、重篤な症状を引き起こします。
脳卒中の中でも、特に突然の激しい頭痛が特徴的です。
くも膜下出血の主な原因
くも膜下出血の最も一般的な原因は、脳の血管にできたこぶ状の膨らみである脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)の破裂です。全体の80%以上が脳動脈瘤の破裂によるとされています。
-
脳動脈瘤
脳の動脈の分岐部にできやすく、壁が薄いため血圧の負荷がかかり続けると破裂する危険性があります。動脈瘤は無症状で存在していることも多く、破裂するまで気づかれないことも少なくありません。
-
その他
脳動静脈奇形(AVM)の破綻、脳血管の炎症、外傷、脳腫瘍など、脳動脈瘤以外が原因となることもありますが、稀です。
くも膜下出血の主な症状
くも膜下出血の最も特徴的な症状は、「これまでに経験したことのない、突然の激しい頭痛」です。しばしば「ハンマーで殴られたような痛み」「バットで殴られたような痛み」と表現されます。この頭痛は、くも膜下腔に流れ出た血液が脳を刺激することで生じます。
その他にも、以下のような症状が突然現れることがあります。
-
意識障害
意識がもうろうとする、呼びかけに反応しない、昏睡状態。出血量が多いほど重篤になります。
-
吐き気・嘔吐
激しい頭痛に伴って生じることが多いです。
-
項部硬直(こうぶこうちょく)
首の後ろが硬くなり、前かがみにしにくくなる症状です。
-
けいれん
-
瞳孔の変化
-
片麻痺や感覚障害
出血部位によっては脳実質内に出血が及ぶことで、手足の麻痺や感覚の異常が生じることがあります。
⚠️ 警告サイン
頭痛 通常の頭痛とは異なる、突然の激しい頭痛を感じたら、すぐに医療機関を受診することが非常に重要です。たとえ症状が一時的に治まっても、再出血のリスクが高いため、早急な診断が必要です。
くも膜下出血の診断
くも膜下出血が疑われる場合、迅速な診断が求められます。
-
頭部CT検査
診断の第一選択となる画像検査です。くも膜下腔に出血した血液が高吸収域として描出されるため、出血の有無を迅速に確認できます。
-
髄液検査(腰椎穿刺)
CTで出血が確認できないが症状が強く疑われる場合に、脳脊髄液に血液が混じっていないかを確認します。
-
脳血管撮影(MRA、CTA、脳血管造影)
出血の原因となった脳動脈瘤や血管の異常の場所や形態を特定するために行われます。
くも膜下出血の急性期治療
くも膜下出血の治療は、再出血の予防と、合併症への対処が主な目的です。再出血は発症から24時間以内が最も多く、特に危険な状態とされています。
再出血の予防
-
脳動脈瘤クリッピング術: 開頭手術により、破裂した脳動脈瘤の根元を金属製のクリップで挟み、血流を遮断して再破裂を防ぐ手術です。
-
コイル塞栓術: カテーテルを血管内に挿入し、動脈瘤の中にプラチナ製のコイルを詰めて血流を遮断し、動脈瘤の破裂を防ぐ治療です。開頭せずに治療できるため、患者さんへの負担が少ないとされています。
-
厳格な血圧管理: 血圧を適切にコントロールすることで、再出血のリスクを低減します。
合併症の予防と治療
-
脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく): 出血後に脳の血管が異常に収縮し、脳への血流が減少することで、脳梗塞を引き起こすことがあります(遅発性脳虚血)。これを防ぐために、薬剤(カルシウム拮抗薬など)の投与や、血管内治療が行われることがあります。
-
水頭症: 脳脊髄液の循環路が出血で妨げられることで、脳室に髄液が溜まり脳を圧迫する状態(水頭症)が起こることがあります。症状によっては、脳室ドレナージやシャント手術(髄液を体の他の部位に流す管を埋め込む)が必要となることがあります。
-
その他の合併症: 意識障害に対する呼吸管理、全身管理、ナトリウム異常など、様々な合併症に対する治療が行われます。
くも膜下出血は非常に緊急性の高い疾患であり、発症した場合は速やかに専門医療機関を受診し、適切な治療を受けることが生命と機能予後を左右します。
脳卒中認定理学療法士の小宮から
突然の「バットで殴られたような」激しい頭痛は、くも膜下出血の最も危険な兆候です。どんなに忙しくても、そのサインを見逃さず、直ちに医療機関を受診する判断があなたの命を救います。症状が一時的に治まっても、再出血のリスクは非常に高いです。自分で病院へ向かうのではなく、一刻も早く救急車を呼び、専門的な治療を受けられる環境へ身を委ねてください。
くも膜下出血は、突然の激しい症状で私たちに襲いかかる、非常に緊急性の高い病気です。しかし、正しい知識と迅速な行動、そしてその後の粘り強いリハビリが、あなたの未来と可能性を守る鍵となります。

【参考にした情報源】
岡庭豊:病気がみえる vol.7 脳・神経.第2版.株式会社メディックメディア.2021
