診断と治療の概要
パーキンソン病は、その特徴的な症状から診断され、薬物療法を中心にリハビリテーションを組み合わせることで症状の管理を目指します。病気の進行度を把握することも、治療方針の決定に重要です。
パーキンソン病の診断
パーキンソン病の診断は、主に患者さんの症状や医師の診察に基づいて行われます。
問診と神経学的診察
発症からの症状の経過、特に運動症状(安静時振戦、固縮、無動、姿勢反射障害)の有無や左右差を詳しく確認します。
初期症状として、**嗅覚障害や便秘、睡眠障害(レム睡眠行動障害)**などが現れることもあるため、これらの非運動症状についても確認します。
薬物反応テスト
ドーパミンの原料となるL-DOPA製剤を投与し、症状が改善するかどうかを確認します。パーキンソン病では、この薬剤によって症状が大きく改善することが多いです。
画像検査
DATスキャン(ドパミントランスポーターシンチグラフィ)
ドーパミン神経の変性・脱落の有無を画像で評価し、パーキンソン病の診断を支持する重要な検査です。
MRI
他の脳疾患(脳腫瘍、脳血管障害など)を除外するために行われることがあります。
パーキンソン病の進行度分類(Hoehn & Yahrの重症度分類)
パーキンソン病の症状の進行度を客観的に評価するために、「Hoehn & Yahr(ホーエン・ヤール)の重症度分類」が国際的に広く用いられています。
ステージI
片側の手足にのみ症状が見られます。日常生活への影響はほとんどありません。
ステージII
両側の手足に症状が見られます。日常生活はまだ自立できますが、動作がやや緩慢になるなど、支障を感じることもあります。
ステージIII
姿勢反射障害がみられ、介助なしでは立っていられない、または倒れてしまうことがあります。日常生活に一部介助が必要となることがあります。
ステージIV
重篤な障害があるため、介助なしでの歩行や起立が困難になります。ベッド上または車椅子での生活となることが多いです。
ステージV
ベッド上または車椅子での生活となり、介護が全面的に必要となります。
パーキンソン病の治療の概要
パーキンソン病の根本的な治療法はまだ確立されていませんが、薬物療法とリハビリテーションを組み合わせることで、症状を管理し、生活の質を維持・向上させることが可能です。
薬物療法
L-DOPA製剤(レボドパ)
ドーパミンの原料となる物質で、脳内でドーパミンに変換され、不足しているドーパミンを補います。パーキンソン病治療において最も効果の高い薬剤とされています。
- 副作用: 長期服用により、薬の効果が切れると症状が悪化する「ウェアリング・オフ現象」や、不随意な動きが出る「ジスキネジア」などの運動合併症が現れることがあります。
ドーパミン受容体作動薬
ドーパミン受容体を直接刺激し、ドーパミン不足を補う薬剤です。
その他の薬剤:
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MAO-B阻害薬、COMT阻害薬: ドーパミンの分解を抑え、脳内のドーパミン量を増やす効果があります.
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アセチルコリン拮抗薬: 振戦や固縮の改善に用いられることがあります。
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アデノシンA2A受容体拮抗薬: ウェアリング・オフ現象の改善などに用いられます。
リハビリテーション
薬物療法と並行して、理学療法、作業療法、言語聴覚療法を継続的に行うことが非常に重要です。体の柔軟性や筋力を維持・向上させ、バランス能力や歩行能力を改善することで、転倒を予防し、日常生活動作(ADL)の維持・向上を目指します。発声練習や嚥下訓練も行われます。
動作改善の工夫
視覚的誘導(地面に線を引くなど)や聴覚的誘導(メトロノームの音など)を用いることで、すくみ足や小刻み歩行の改善が期待できます.
外科的治療(脳深部刺激療法:DBS)
薬物療法で効果が不十分な場合や、重い運動合併症(ウェアリング・オフ、ジスキネジアなど)がある場合に検討されます。脳の特定の部位(視床下核など)に電極を植え込み、電気刺激を与えることで症状の改善を図る治療です。
パーキンソン病は進行性の病気ですが、早期診断と適切な治療、そして継続的なリハビリテーションによって、多くの患者さんが長期間にわたり活動的な生活を送ることが可能になっています。
R-accion.代表の小宮から
パーキンソン病の症状や Hoehn & Yahr 分類での進行度を理解することは、最適な薬物療法とリハビリを選択するための第一歩です。ご自身の状態を把握し、医療チームと情報を共有しましょう。パーキンソン病であっても、趣味や社会活動を諦める必要はありません。動作の工夫や補助具の活用、必要であれば脳深部刺激療法(DBS)なども検討し、生活の質を最大限に高めていきましょう。
パーキンソン病と診断された方、あるいはそのご家族の皆様。この病気は進行性ですが、適切な診断に基づいた治療と、積極的なリハビリテーションを組み合わせることで、症状を管理し、豊かな生活を長く送ることが十分に可能です。決して希望を失わないでください。

【参考にした情報源】
岡庭豊:病気がみえる vol.7 脳・神経.第2版.株式会社メディックメディア.2021
