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パーキンソニズム
パーキンソン症候群
似て非なる病態の理解

 「パーキンソン病」という言葉はよく耳にするかもしれません。しかし、「パーキンソニズム」や「パーキンソン症候群」という言葉も存在し、これらがどのように違うのか、混同されがちです。

 

 これらの言葉は非常によく似た症状を示すため、区別がつきにくいのですが、その根本的な原因や治療法、病気の進行は大きく異なります。正確な診断と適切な治療のためには、それぞれの病態を深く理解することが重要です。

パーキンソン病:特定の脳細胞の変性による進行性の神経変性疾患

 パーキンソン病は、神経変性疾患の一つであり、脳の特定の部分である中脳の黒質(こくしつ)という場所にあるドパミン神経細胞が徐々に減少し、神経伝達物質であるドパミンが不足することによって発症します。この細胞が減少する明確な原因はまだ完全に解明されていませんが、遺伝的要因や環境要因の複合的な影響が考えられています。

主な症状(運動症状)

パーキンソン病の診断に用いられる代表的な「四大症状」があります。

  • 振戦(しんせん): 静止時に手足が震える。特に、目的のある動作時には震えが軽減する「安静時振戦」が特徴的です。

  • 無動・寡動(むどう・かどう): 動きが遅くなる、動き出しにくい、細かい動作が苦手になる(字が小さくなる、食事に時間がかかる)、表情が乏しくなる(仮面様顔貌)、瞬きの回数が減る、小刻み歩行になる(すり足、突進歩行)など。

  • 筋固縮(きんこしゅく): 関節を動かすときに抵抗がある。力を抜いている状態でも筋肉が硬く、「歯車様固縮(カクカクとした抵抗)」や「鉛管様固縮(持続的な抵抗)」として感じられることがあります。

  • 姿勢反射障害: バランスを崩しやすく、転倒しやすくなる。立ち直り反応が遅れ、つんのめるように倒れたり、一歩で踏み出せずに転倒したりします。

  • 非運動症状: 運動症状に先行して、または同時に様々な非運動症状が現れることがあります。これらは患者さんの生活の質に大きく影響を与えることがあります。

    • 便秘、嗅覚障害、睡眠障害(レム睡眠行動障害)、うつ状態、自律神経症状(起立性低血圧、発汗異常など)、痛み、疲労感、認知機能の低下など。

特徴

  • ドパミンの補充療法(L-Dopa製剤など)が有効であることが多いです。薬物療法によって症状が劇的に改善する場合もあります。

  • 症状は一般的にゆっくりと進行します。

  • 通常、症状は左右どちらか片側から始まることが多いです

パーキンソニズム:パーキンソン病「様」の症状を呈する状態

 パーキンソニズムとは、パーキンソン病に似た運動症状(振戦、無動、筋固縮、姿勢反射障害)を呈する状態全般を指す広い概念の言葉です。つまり、パーキンソン病もこのパーキンソニズムの一種と考えることができます。パーキンソニズムという言葉は、あくまで症状の集合体を指し、その原因は問いません。

パーキンソン症候群(二次性パーキンソニズム・非定型パーキンソニズム):パーキンソン病以外の原因

 パーキンソン症候群は、パーキンソン病以外の明確な原因によってパーキンソン病様の症状(パーキンソニズム)が現れる病態を指します。原因によって大きく「二次性パーキンソニズム」と「非定型パーキンソニズム」に分類されます。

(1) 二次性パーキンソニズム(症状性パーキンソニズム)

 特定の外部要因や他の疾患が原因となって引き起こされるパーキンソニズムです。

  • 薬物性パーキンソニズム: 精神科の薬(特に抗精神病薬)や、吐き気止めなど、脳内のドパミン受容体を遮断する作用を持つ薬剤によって引き起こされることがあります。原因薬剤の減量や中止で改善することが多いですが、自己判断はせずに必ず医師と相談が必要です。

  • 脳血管性パーキンソニズム: 脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が、運動を制御する脳の部位(特に大脳基底核やその周辺)にダメージを与えることで発症します。歩行障害や姿勢反射障害が目立ち、小刻み歩行やすり足が特徴的で、パーキンソン病に比べて振戦は目立たない傾向があります。下半身の症状が上半身よりも顕著なことが多いです。

  • 正常圧水頭症: 脳脊髄液が脳室に過剰に溜まることで、脳を圧迫し、歩行障害(すり足、バランス不良)、認知機能障害、尿失禁の「三徴候」と共にパーキンソン病様の症状が出ることがあります。シャント手術によって症状の改善が見られる可能性があるため、鑑別が重要です。

  • 脳炎後パーキンソニズム: 脳炎などの感染症後に発症することがあります。

  • その他: 脳腫瘍、頭部外傷、重金属中毒(マンガンなど)、一酸化炭素中毒など、様々な原因によって起こりえます。

(2) 非定型パーキンソニズム(パーキンソンプラス症候群)

 これらは、パーキンソン病とは異なる種類の神経変性疾患で、パーキンソン病に似た症状(パーキンソニズム)を示すものの、L-Dopa製剤があまり効かなかったり、パーキンソン病には見られない特有の症状を伴ったりします。これらの疾患は一般的にパーキンソン病よりも進行が速い傾向があります。

  • 多系統萎縮症 (MSA: Multiple System Atrophy): パーキンソン病様の症状に加え、小脳失調(ふらつき、バランス障害、構音障害)や、自律神経症状(起立性低血圧、排尿障害、便秘、発汗異常、勃起不全など)が顕著に現れることがあります。特に自律神経症状が重いのが特徴です。

  • 進行性核上性麻痺 (PSP: Progressive Supranuclear Palsy): 姿勢反射障害が特に強く、転倒しやすいのが最大の特徴です。また、眼球が上下に動かしにくくなる「垂直性眼球運動障害」や、首が後ろに反り返る症状(後弓反張)なども見られます。認知機能障害も早期から目立つことがあります。

  • 大脳皮質基底核変性症 (CBD: Corticobasal Degeneration): 左右どちらか片側の手足に、ぎこちなさや麻痺のような症状(「他人の手徴候」と呼ばれる、自分の意思とは関係なく手足が勝手に動く症状など)や、「肢節失行(麻痺がないのに、目的に合った複雑な動作ができない)」など、非常に特徴的な症状を伴うことがあります。

 これらの違いを正確に診断するためには、専門医による詳細な問診、神経学的診察、画像検査(頭部MRI、MIBG心筋シンチグラフィ、DATスキャンなど)、薬剤の使用歴の確認など、多角的なアプローチが必要です。症状がパーキンソン病に似ていても、その原因が異なれば、治療法や予後も大きく変わってきます。適切な診断のもと、それぞれの病態に合わせた治療とリハビリテーションを行うことが、症状の管理と生活の質の維持・向上に繋がります。

R-accion.代表の小宮から

 振戦、無動、筋固縮、姿勢反射障害といった運動症状は、専門的な運動療法が効果的です。特に、動き出しのコツ、歩行の安定化、バランス能力の向上は、転倒予防にも繋がります。理学療法士は、あなたの動きの癖を見抜き、正しい体の使い方を丁寧に指導します。便秘、睡眠障害、うつ症状など、運動以外の症状も患者さんの生活に大きな影響を与えます。これらもリハビリや生活習慣の改善で対応できることがありますので、隠さずに医療チームに伝え、包括的なサポートを受けましょう。

「パーキンソン病」と診断された方も、「パーキンソン症候群」と診断された方も、症状の背景は異なっても、「動きにくさ」や「バランスの不安定さ」という共通の困難に直面しています。私たち理学療法士は、この「動き」の専門家として、それぞれの病態と症状の特性を深く理解し、あなたに最適な運動療法と生活指導を提供することで、生活の質を最大限に高めるサポートをします。

小宮良太

【参考にした情報源】

岡庭豊:病気がみえる vol.7 脳・神経.第2版.株式会社メディックメディア.2021

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