上腕骨近位部骨折
上腕骨近位部骨折は、特に高齢者の転倒で生じることが多い骨折で、骨粗鬆症が背景にあることが多いです。若年者でも高エネルギー外傷によって発生することがあります。
1. 疫学・好発
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好発: 高齢者(特に女性) 
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誘因: 転倒(特に手をついての転倒が多い) 
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背景: 骨粗鬆症(特に閉経後の女性に多い) 
2. 病態と分類
上腕骨近位部骨折は、骨頭、解剖頚、外科頚、大結節、小結節のいずれかの部分で発生し、これらの部位の骨折が組み合わさることもあります。転位の程度によって分類され、治療方針に影響します。
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Neerの分類: 
上腕骨近位部を4つの主要な骨片(骨頭、大結節、小結節、骨幹部)に分け、転位の程度によって分類する。転位がないか、あるいはごくわずかな転位の骨折が全体の約80%を占める。
3. 症状と診断
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症状: - 
肩関節部の強い疼痛、腫脹、変形 
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上肢の挙上・外転が困難 
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患肢の短縮、内旋変形 
 
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診断: - 
X線像: 骨折線の確認。様々な方向からの撮影が必要となる場合がある(正面像、軸射像)。 
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CT像: 複雑な骨折や関節内骨折の評価に有用。骨片の転位や関節面の状態を詳細に把握できる。 
 
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4. 合併症
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変形癒合: 骨折が適切に整復されないと、骨の変形を伴って癒合し、肩関節の可動域制限や疼痛の原因となることがある。 
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偽関節: 骨折が癒合しない状態。 
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阻血性骨壊死(AVN): 特に骨頭への血流が途絶することで、骨組織が壊死する。Neerの分類で多骨片骨折の場合にリスクが高い。 
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神経・血管損傷: まれに腋窩神経や腋窩動脈などの損傷を伴うことがある。 
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肩関節脱臼: 骨折と同時に肩関節の脱臼を伴う場合がある。 
5. 治療
治療は骨折の安定性、転位の程度、患者の年齢、活動レベル、骨粗鬆症の有無などによって決定されます。
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保存療法: - 
転位が少ない安定型骨折の場合に選択される。 
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三角巾や装具による固定。 
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早期からの愛護的な運動療法が重要となる。 
 
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手術療法: - 
転位の大きい不安定型骨折、関節内骨折、開放骨折、神経血管損傷を伴う場合などに選択される。 
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内固定術(骨接合術): プレートやスクリュー、髄内釘などを用いて骨折部を固定する。 - 
ロッキングプレート: 近年では、固定性が高く、早期からのリハビリテーションを可能にするロッキングプレートが広く用いられている。 
 
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人工骨頭置換術: 骨折が粉砕されており、骨頭の血行不良による壊死のリスクが高い場合や、高齢者で早期の機能回復を目指す場合に選択される。 
 
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6. 予後
上腕骨近位部骨折の予後は、骨折のタイプ、治療法、リハビリテーションの状況によって大きく異なります。特に高齢者では、長期臥床に伴う廃用症候群の予防のため、早期からのリハビリテーションが非常に重要となります。
R-accion.代表の小宮から
腕骨近位部骨折は、「腕を上げる」「物を取る」といった日常生活の基本動作を困難**にし、患者さんの生活の質を大きく低下させる可能性があります。しかし、適切な治療と、早期からの丁寧なリハビリによって、肩の機能を回復させ、再び活動的な毎日を取り戻すことは十分に可能です!
転位の少ない安定した骨折の場合は、手術せずにギプスや三角巾で固定します。この期間中も、肩の周囲の筋肉が硬くならないよう、医師や理学療法士の指導のもと、痛みのない範囲で腕を動かす練習を愛護的に始めます。無理は禁物ですが、動かさないこともリスクです。
手術で骨が固定されたら、早期からリハビリを開始します。初めは小さな動きから、徐々に肩の曲げ伸ばしや腕を上げる練習、そして筋力強化へと進めていきます。焦らず、専門家の指導に従い、段階的に機能を回復させていきましょう。

【参考にした情報源】
岡庭豊:病気が見える vol.11 運動器・整形外科.第1版.株式会社メディックメディア.2021
内田淳正:標準整形外科学.第11版.株式会社医学書院.2012
